1 掲示板・SNSにおける誹謗中傷の名誉毀損
2ちゃんねるや5チャンネル等の掲示板、Ⅹ(Twitter)やFacebook等のSNS、その他Googleマップ等のサイトにおいて、誹謗中傷の投稿・書き込みが行われ、名誉が毀損されることがあります1。
投稿や書き込みによって名誉が毀損された場合、投稿主の特定(発信者情報開示請求)や損害賠償請求等を行うことが考えられます。
2 名誉毀損とは?
名誉毀損は、他人の社会的評価を低下させることをいいます2。判例では、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉に違法に侵害」することとされています3。
3 名誉毀損の具体例は?
例えば以下の具体例は、裁判例で、名誉毀損であると判断されています。
① 新聞記者が、他人のコラムを登用してコラムを執筆したとの摘示4
② プロ野球選手が、暴力団組長と親密な交際をしており、かつ、野球賭博にも関与していたとの摘示5
③ テレビ局のアナウンサーが学生時代に、下着姿で接待等のサービスをするランジェリーパブでアルバイトをしていたとの摘示6
他方で、以下の具体例は、裁判で名誉毀損ではないと判断された例です。
① インターネット上の電子掲示板に、匿名の投稿者が某社の社長の名前を冒用して、「なめとんのか?」等と書き込んだ事案7
② タレントとプロレスラーの夫婦が離婚の危機にある旨を報じた報道記事8
③ 「店主もムカつく顔してるし、味も〇〇で1番マズかった。」、「ヤク中みたいな顔しやがって。」9
「ばか」「馬鹿」等と不動産会社について投稿がなされた事案について、「原告が馬鹿な社員ばかりのレベルの低い会社であり、原告で不動産を購入するのは控えようとまでの印象を与えるとは解されず」、「原告の社会的評価を低下させ・・・るとはいえ」なと等と裁判所で判断されている事例もあり10、名誉毀損にあたるか否かは個別具体的な検討が必要であって、被害者が苦痛や損害を感じるもののすべてが名誉毀損にあたるわけではない点に留意が必要です。
4 重要な部分の内容が真実であることをうかがわせる事情の不存在を立証する必要がある?
名誉毀損が正当化される基準については、最高裁判所が基準を示しています11。発信者情報開示請求や削除請求において実務上問題となることが多いのは、重要な部分の内容が真実であることです。
発信者情報開示請求や削除請求においては、被害者は、重要な部分の内容が真実であることをうかがわせる事情の不存在の立証責任があります。加害者の投稿の重要な部分の内容が真実であることをうかがわせる事情の不存在について、被害者は、できる限りの立証活動を尽くす必要があります12。
なお、真実と信じるにつき相当の理由の有無も問題となりますが、発信者情報開示請求や削除請求の段階では考慮する必要はなく、投稿主特定後の損害賠償請求の段階で検討します13。
5 誰に対する投稿かわかる(同定可能性)?14
ネット上の誹謗中傷において、投稿が誰に対するものなのかが問題となることがあります。
例えば、社会的評価を低下させる表現とともに、「あいつ」や伏字等の表現が用いられていた場合、「あいつ」や伏字の対象が誰なのかが不明であって、特定の者に対する名誉毀損が成立しません(文脈等によって誰のかが特定できる場合は、名誉毀損が成立し得ます。)。名誉毀損とはいえないので、名誉毀損を理由とした削除請求、発信者情報開示請求や損害賠償請求は認められません。
そのため、「あいつ」や伏字等の表現が用いられている場合、対象が誰なのかについて、主張・立証する必要があります。
インターネット上の誹謗中傷(名誉毀損)のご相談は当事務所もお受けしています。
- 故人の名誉毀損については、掲示板・SNS上の誹謗中傷の故人に対する名誉毀損 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.2 ↩︎
- 1986年6月11日最高裁判所大法廷判決判例タイムズ605号42頁 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.13 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.14 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.14 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.20 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.21 ↩︎
- 清水陽平他.最新事例でみる発信者情報開示の可否判断.新日本法規出版株式会社,2022.11,p.197‐200 ↩︎
- 深澤諭史.インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求後の法的対応Q&A第2版.第一法規株式会社,2024.3,p.21 ↩︎
- 1997年9月9日最高裁判所判決民集51巻8号3804頁 ↩︎
- 中澤佑一.インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル第4版.株式会社中央経済社ホールディングス,2022.3,p.71‐73 ↩︎
- 神田知宏.第2版インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式.日本加除出版株式会社,2023.9,p.86‐87 ↩︎
- 中澤佑一.インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル第4版.株式会社中央経済社ホールディングス,2022.3,p.68‐70、清水陽平他.最新事例でみる発信者情報開示の可否判断.新日本法規出版株式会社,2022.11,p.34‐36 ↩︎