1 発信者情報開示の仮処分手続とは?
Ⅹ(ツイッター)のツイートや、Googleマップのクチコミ等、ネット上で誹謗中傷が行われた場合や、風評被害が生じた場合、被害者は加害者に対して損害賠償を求められる可能性があります。
しかし、ツイートやクチコミ等の投稿が匿名で行われていた場合、被害者は、どこの誰に対して損害賠償請求をすれば良いのかわかりません。事実上、被害の回復を求めることは不可能です。
そこで、発信者情報開示請求権という法的な権利を行使して、匿名の投稿者を特定することが考えられます。
以下では、裁判所の手続である発信者情報開示の仮処分の手続についてご説明いたします。
発信者情報開示の仮処分の手続は、民事保全手続の一つです。民事保全手続は、損害賠償請求等の訴訟(裁判)のための保全の手続です。そもそも投稿主がどこの誰かわからないため訴訟(裁判)を起こせないのですが、投稿主の特定のためには、投稿主のIPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)や電話番号といった情報が必要になります。
IPアドレスはX(ツイッター)やGoogleマップ等の運営会社等(コンテンツプロバイダ)から開示を受ける必要があるのですが、アクセスプロバイダのIPアドレスの保存期間は長くありません。そのため、IPアドレスが消去される前に投稿主を特定するために、民事保全の手続の一つである発信者情報開示の仮処分の手続があります。
2 発信者情報開示の仮処分手続を用いた投稿主の特定の流れ1
⑴ コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示の仮処分手続
まず、Ⅹ(ツイッター)やGoogleマップ等の運営会社等(コンテンツプロバイダ)に対して、IPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)等を開示を求めて、発信者情報開示の仮処分の手続を行います。
⑵ アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟又は発信者情報開示命令手続
アクセスプロバイダに対して任意の開示を求める必要がある特別の事情がなければ、アクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスをもとに、投稿主の氏名等の開示を求める訴訟(裁判)の提起、又は発信者情報開示命令の申立てを行います2。
投稿主の特定のために必要な情報の保存期間があるので、併せて、必要な情報が消去されないようにする手続も行います。
投稿をした相手の特定は、時間との勝負です。発信者情報開示の仮処分のご相談は、当事務所もお受けしています。
- 平野哲郎.実践民事執行法民事保全法第3版補訂版.日本評論社,2022.7,p.359‐360 ↩︎
- 誹謗中傷の発信者情報開示命令 ↩︎