1 故人に対する誹謗中傷が名誉毀損になる可能性があります
誹謗中傷で自死された方や、いじめで自死された方(子ども)に対する誹謗中傷等、SNSや掲示板において、故人に対する誹謗中傷が行われることがあります。
まず、SNSや掲示板における誹謗中傷において、故人の社会的評価を低下させる事実の摘示(名誉毀損)がなされている場合、ご遺族自身の社会的評価も低下させるものと理解できる場合には、ご遺族に対する名誉毀損が成立し得ます1。
ご遺族自身の社会的評価も低下させるものと理解できない場合には、「故人に対する敬愛追慕の情」を侵害されたとして、誹謗中傷について、ご遺族に対する不法行為が成立する可能性があります2。
2 敬愛追慕の情の侵害の判断では受忍限度が問題となります
裁判例では、敬愛追慕の情の侵害の有無の判断にあたって、受忍限度が問題とされています。例えば、「死者の名誉を毀損し、これにより遺族の死者に対する敬愛追慕の情を、その受忍限度を超えて侵害したときは、当該遺族に対する不法行為を構成するものと解するのが相当であ」る等と判断された裁判例3があります。
受忍限度とは、社会生活において受忍(損害等を被っても耐え忍んで我慢すること)することが一般的に相当であるとされる限度を基準として考えていこうとするものです4。
故人を悪く言われれば心が傷つくのは当然であって、受忍限度という一線を引かれること自体心外に思われる5かと存じますが、受忍限度を問題にする裁判例があります。
3 摘示された事実が虚偽の事実であることが必要?
刑法では、故人に対する名誉毀損について、「虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」されています6。
そこで、民事上の責任における故人に対する名誉毀損についても、虚偽の事実を摘示することが不法行為成立の条件になるかが問題となります。この点については、様々な考え方があります7。
4 故人に対して誹謗中傷がなされている場合にも削除請求や発信者情報開示請求をできる可能性があります
故人に対して誹謗中傷(名誉毀損)がなされている場合、ご遺族に対する名誉毀損が成立することもあれば、敬愛追慕の情が侵害されることもあります。
そのような場合、匿名の投稿主を特定するための発信者情報開示請求を行ったり、誹謗中傷の記事の削除請求を行える可能性があります。
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.48、細川潔・和泉貴士・田中健太郎.弁護士によるネットいじめ対応マニュアル 学校トラブルを中心に.株式会社エイデル研究所,2021.11,p.69 ↩︎
- 1977年7月19日東京地方裁判所判決判例時報857号65頁、1979年3月14日東京高等裁判所判決判例時報918号21頁、細川潔・和泉貴士・田中健太郎.弁護士によるネットいじめ対応マニュアル 学校トラブルを中心に.株式会社エイデル研究所,2021.11,p.69‐70 ↩︎
- 2011年6月15日東京地方裁判所判決判例時報2123号47頁、細川潔・和泉貴士・田中健太郎.弁護士によるネットいじめ対応マニュアル 学校トラブルを中心に.株式会社エイデル研究所,2021.11,p.70‐71 ↩︎
- 窪田充見.不法行為法 民法を学ぶ第2版.株式会社有斐閣,2018.4,p.60 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.52 ↩︎
- 刑法230条2項 ↩︎
- 佃克彦.名誉毀損の法律実務第3版.株式会社弘文堂,2017.6,p.54‐57 ↩︎